- 山出し編:2日目 その4 -
《坂を後に……》

本当は、秋一の木落としを見たいところですが、さくっと立ち上がります。

「あとで、またね」

木落とし坂の向こうにいる秋一に、心の中で告げて。

行きよりも、ずっとぐぐっと混み合う下り坂。
下ってくる御柱を抜かしつつ、すれ違いざまに記念撮影。


早足で降りてきましたが、もうすぐ落合の交差点というところで、列はぴたっととまりました。

最初は意味が分からなかったのですが、どうやら、落合の交差点を御柱が曲がるまで歩行者を止めてるよう。
でも、このあたりのお客さんに事情が説明されたのは、偶然写真を撮影していた御柱の下諏訪はっぴを来ていた方……つまり、地元の、しかも、今、引いてる人たちの写真を撮っていた方で。

安全のため歩行者を止めるのはわかるし、もちろんのことなのですが「歩くなら左側を通ってください」と言われて降りてきているので、いきなり止められると逆に驚きます。

もう少し、止めてるところ(落合の交差点)よりも、木落とし坂の方へ行ったところで警察の方に説明をしてほしいところです。

警察の方が話す訳じゃないので、お客さんの中には怒り出す人も……。

でもさ、御柱って、今、神様が乗ってるんですよ!?
(山の神様に柱に降りてきてもらって、曳行するのです)

祭りって神事なんだから、神様が優先に決まってるじゃんね?

びた止まりをして、動かない中、ぐずり出す子供にお父さんが一言。

「そういう人は、見に来ちゃいけません」

お父さん、あなた、正しい!!

御柱が曲がったら、すぐに通れるようになるんで、しばらくの辛抱です。

《郵便局でお買い物》

通れるようになって、一気に街へと戻ります。

木落とし坂と春宮のちょうど真ん中あたりにあった郵便局のテントになんとなく、ふらっと寄ってみました。
6年前のお祭りの時に、同じように郵便局のテントで企画物を買ったんです。いくつか郵便局のテントはあったんだけど、そこにしか売ってなかったんですよ。

「御柱祭」って書がプリントされた色紙。

印刷かよっ! って?
適切な突っ込み、ありがとうございます(笑)
でも。こういう書や絵もね、向こうから寄ってくるんですよ。
うそじゃないよ。そういうものなんです。人だけじゃない、作品だって出会うものなんだから。

ともかく。
私は、その時に自分の好きな書の印刷された色紙に出会って、買ったんですよ。
で、今年は何かないかなぁ〜、と見てみたんです。

今年は、御柱祭の切手でした。
んー、でも、2セット買うとついてくるという、クリアファイルは、ほしい……。

悩みましたが、結局、御柱祭切手を2セット買うことに(笑)

「実は、前回来たとき、色紙を買ったんですよ。」

売ってくれたお姉さんに言ったのですが、6年前はまだ郵便局にいなかったみたいで……。あまり要を得ない感じ。ま、しょうがないよね、と思っていたら、お姉さんの後ろから

「あ、売ってましたよ!」

後ろからめがねをかけたおじちゃんが。

「今年も何かあるかな、と思って来たんだけど」
「初日はちょっとあったんだけどね……ごめんなさいね」
「……。あの、6年前、私に色紙売ってくれた人じゃないですか?」
「下諏訪の駅前でしょ? たぶん、私、いました。」

なんということでしょう。

郵便局のテントは、ここだけじゃなくて、他にもたくさん出ています。
たまたま、ここで、前回売ってくださった方に出会うなんて。

「私、言われたんですよ。
 『これ、上社で冠落しした木っ端だからね。きっといいことあるよ』
 って。」

山から里へ曳き出された御柱は、神社の境内に曳き入れられた後、頭を尖った形に整えます。
これを「冠落し(かんむりおとし)」といい、その時に出た木屑を木っ端(こっぱ)と呼びます。
木屑というより、木札といいたくなるくらい立派なものがついてたんですよ。

「氏子でも争ってもらってくるくらいのものだからね、って」
「これ、もらってってください」

おもちゃだけど、とポスト型のレターオープナーを頂きました。

「たぶん、私、そこにいましたね。」
「わー、すごいなぁ……他にも郵便局のテントいっぱいあるのに……ここ来て良かった」
「里びき、何か考えますから。」
「ほんとですか? 私、初日、きますよ!?」
「はい。コイツ(と若いお兄ちゃんをさす)と駅前にいますから、またぜひ来てくださいね。」

手を振って挨拶しながら、春宮へ向かいました。

なにかいいことがあったかって?

6年間無事に過ごせて、そして、また、諏訪に祭りを見に来れたことでしょう。

あんなに大変な仕事を辞めたのが、今から1年前。
体力も気力も何もかもがなくなってたのに、それを徐々に乗り越えて。
ここで、木落とし坂まで往復徒歩!

それができるほどまで、体力も、気力も回復したってことです。

それだけじゃない。いいことたくさんありました。

mixi始めたのもたしかそう。
キャラメルボックスを見始めたのもそう。
今の多くの友人とつながったのも、つながりが戻ったのもそう。

いいことたくさんあったよ。
次は里びきに来るからね。

《at 春宮》

さて、目指すは、春宮。
坂を登り始めるときに「後でくるね」と言ったところです。

後でくるね、とは言ったものの、どう考えてもこの時間にしかここにはこれなさそうだったので、次の木落としをあきらめて、参拝に。

お札を買った後、鞄の中から、お守りを取り出します。
どうしても人のいるうちに神社でお札を納めたかったんです。

6年前の前回の祭りで買った携帯ストラップ。
木製の小さな札がついてて「祝御柱」って書いてあったんです。

何年か携帯につけていたら、五色のひもがきれました。
なので、金具を通してほかのストラップに通して、携帯へ。
何年かして、ひもを通す金具がとれた。

でも。
この札は残った。

札に開いてる穴に直接ほかのストラップを通して、また、携帯へ。

そして、6年経った今。
ここにこうやって返しにきている。

落ちても、切れても、私の手元に残っていた、それもきっとご縁。
私と御柱は、文字通り、切っても切れないご縁なのです。

感謝の思いを込めて、お札を納めます。

そして、隣の社務所で首から下げるお守りを購入。
そのまますぐに首に下げます。

里引きの時にもつけよう!

と、思って、時計を見ると15時すぎ。

さぁ、どうしよう…。

実は温泉に入って帰ろうかと思ってたんですが、やっぱり、秋一、見たいんですよね……。

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