第6章 暴きだされる野望
ここまでの事情を、宗祇はほんの十秒もかからずに要約して話した。

「それで、俺が江島を迎えにきた、というわけだ」

事情こそ分かったものの、愛美の怒りはまったく治まっていないようだった。

「何にしたって、ひどい話! それに、宗祇くんってデリカシーの欠片もないのね!」

グッ、と言葉につまる宗祇。

「それにしても、犯人たちは何を考えてるのかしらね? 津山に女の子を襲わせるだなんて!」
「そうだな。生徒からの人気はゼロとはいえ、津山はベテランの教師だ。学園の、生徒による自治に反対してる奴らの中でも、そこそこ力を持ってる。そいつを抱き込むつもりなのか、それとも脅迫でもするのか、どっちにしても、何かの要求を飲ませるつもりじゃないのか?」
「でも、被害者の女の子が告発しちゃえば、すぐに執行部や理事会が動くわ。確かに、被害者の子にとっては言いにくいことだと思うけど、リスクが高すぎない?」
「ああ、それについては問題ない」
「どうしてよ!」
「被害者から、そのことに関する記憶を奪ってしまえばいい。事実、理佳という子は、その時のことを覚えていなかった」
「……!」
「まあ、彼女にとっても、その方がいいのかもしれないな。今回の退行催眠による事情聴取で戻りかけた記憶も、永沢が封印しなおしたそうだから……」
「止めて!」

いきなりの制止に、宗祇は思わず急ブレーキを踏んだ。
耳障りな音を立てて、エレキカーが止まる。

「なんだ! どうした!?」
「ちょっと降ろして!」

クラブハウスの前。さっきまで未紀がいたはずの場所であり、<正義>が未紀を見張っていたはずの場所である。しかし、今はまったく人影が見えない。
愛美は、未紀たちの行方を探るべく、周りの匂いを嗅いだ。そこで彼女は、意外な匂いを嗅ぎ取った。

「<恋人たち>!?」

そう。今まで姿を見せていなかった<恋人たち>が、津山と一緒にエレキカーで移動したことを、愛美は匂いの痕跡によって知ったのだ。そして、そのエレキカーと一緒に、<正義>も移動している。未紀もまた別の場所に移動したようだ。
愛美の思考が、<恋人たち>を追うか、それとも未紀を追うのかとせめぎ合う。しかし、迷っているのは一瞬だけだった。宗祇の待つエレキカーに飛び乗り、

「早く出して! 津山たちを追うわ!」

もうこれ以上、理佳のような被害者を出すのは耐えられなかった。
再び生徒会地下本部。そこには、場を外した宗祇と入れ違いに、報道委員への報道規制を言い渡してきた紀家が入室していた。
佑苑から、理佳についての事情を聞いたとき、紀家が激怒したことは言うまでもない。だがそこで冷静さを失わなかったのは、報道に携わっている者ゆえなのだろうか。

「どうもわからないなあ。鬼堂くんを小さくして、天草くんを拉致して、そのうえ今度は婦女暴行だなんて……。犯人はいったい何がやりたいんだろう?」

佑苑が軽く顎に手を当てて、

「そういえば、これまでこの事件のことを順序立てて分析していませんでしたね。次々起こる事件に振り回されてばかりで」

ゆかりが、こくんと首を傾げる。

「やっぱり、今整理しておくべきかしら?」

紀家は、うなずいた。

「簡単にでも、ね。……まず、最初に起こったのは、鬼堂くんの幼児化騒ぎだったね」
「いえ、違います」

佑苑が言った。

「今までの事件が皆、同一軸線上にあるとするなら、最初の事件は、土曜日に起こった万能科学部とオカルト研究会からの薬品盗難です。鬼堂くんの幼児化は、<ショタコニンX>によるものですから」
「ああ、そうか。じゃあ、鬼堂くんの幼児化の次は……」
「月曜日、つまり今日の授業後に起きた、天草くんの失踪ですね」
「うん。それから、さっきの理佳さん失神事件……」

こうやって列挙してみると、表に出ている事件は案外少ない。
紀家と佑苑の会話に従い、ノアが今までに起きた事件と、それに関するデータをモニター上に並べていく。佑苑は一通りの情報に目を通し、それを改めて組み合わせていった。そして、突然その目を見開いたのだ。

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