- 山出し編:2日目 その6 -
《秋宮へ》

雨が降って、寒くなってきたけれど、すぐ駅には行きません。

どんどん、ずんずん早足で歩いて、朝は上るのをあきらめた126段の階段を。
夜桜の下を下っていきます。

そして、駅へ行くなら右へ折れるところをそのまままっすぐ。
中山道を歩いていきます。

目指すは、秋宮。

諏訪に来たら、ここに寄らなきゃ帰れません。

しかし、寒い…。
体がだんだん冷たくなってきました。
歩くスピードをあげますが、おいつきません。

ふと前を行く人が路地から湧き出る水に手をつけていました。

ん?

私も近づいてみると……湯けむり。

温泉だっ!!

ここは、温泉の街。
湧き出ていても不思議じゃないです。
手を少し暖めて先に急ぎますが、暖めたことで余計に体中に寒さが……。

やばいっ!!

目に入った銭湯に飛び込みます。
旦過の湯。

番台というより受付という感じの銭湯。
おばあちゃんに声をかけると、券売機でチケットを買うシステムらしい。

220円!!

さすが、温泉街。

「あったまっていってくださいね」

おばあちゃんの暖かい言葉に癒されながら入っていきました。

「こんばんわ〜」

入ると中から声を掛けられます。

井戸端会議、銭湯版。
なんか、ほっこりしてて心から暖まります。

温泉のお湯は熱め。
冷えた体には、あっつーい感じです。
ゆっくりあったまって出てきて、おばあちゃんに挨拶します。

「ありがとうございます。あったまりました。」
「良かったわ〜。気をつけて帰ってね」
「はい、名古屋まで帰ります!」
「名古屋から!? ありがとうね…。ほんと、気をつけて帰ってね」

ほんとに丁寧にお礼を言われて、何もしてないよ!?と思いつつ、暖かさがしみました。
立ち上がってお辞儀をするおばあちゃんに見送られ、おじちゃんからもらったビニールをかぶって外に出ます。

よしっ、秋宮だ。
ここまでくれば、もう目と鼻の先です。

さっきより雨はざんざん降ってますが、体があったまった分、そして、足が軽くなった分、歩くのも早い早い。

待っててね、秋宮〜♪

《秋宮到着♪》

秋宮に到着。
お風呂でゆっくりしてしまったこともあって、あたりは真っ暗。
それでも、何度も来ているだけあって、すーっと足が向いていきます。

神楽殿を裏手に回ると……本殿工事中。

うわわ。

でも、右にちっちゃく拝殿がつくられています。
そこで拝んで帰ろう。

さすがに、ビニールは失礼なのでとりましたが、雨がひどくて、フードとタオルはそのまま。
心の中でお詫びしてからのお参り。
きっと、この状況なら神様も許してくださることでしょう。

参拝も終わって、真っ暗な境内を戻っていると、広報の放送が。

「……ただいま、秋宮一の御柱が注連掛に到着し……」

これで無事に山だしも終了。
里びきまで、しばしの間、御柱も休息を取ります。

秋宮を後にして、大社通りをゆっくり下り、下諏訪の駅へ。
もちろん、歩く早さは緩めません。
だって、雨が……、雨が……、雨が……。

小ぶりに!?

駅に到着する頃には、傘がいらないくらいに。

そうか。私は、秋宮に「早く来い」って、呼ばれてたんだ!

《帰ります》

駅についたのは、19時。
夕飯を買おうかなと財布を見てびっくり。

300円しかない!

ふと、左手をポケットに入れると、500円玉。

そうだよ。
そうだよ。
あの日、入れたんだよ。

500円。

これで、ご飯が食べられる!!

塩尻の駅でしなのに乗るまでに1時間。
駅のコンビニでご飯を買って、待合室でレポートを。

20時を過ぎた頃、コンビニがシャッターをしめかけたら

「ビールちょうだい!」
「もう、閉店なんですけど」
「ビール、何でもいいんだ」
「何でもいいですか?」
「何でもいい。」
「350と500どっちがいいですか?」
「500で」

床にお金をおいて、お支払い(笑)

そして、待合室のいすに座るおじちゃん。
奥さんがお手洗いに行っていたのか、そんなことはなにも知らずにおじちゃんの横に座ります。
どうやら冠婚葬祭の帰りみたい。

さぁ、私も名古屋に帰りますか。

また、来月、来るからね。

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