何時から居たのかはわからない。だが、私はそこにいた。
闇の中。うっすらと自分の体が見える。目の前には木箱が一箱……。
……自分の体? ……見える!?
自然に湧き出たこれらの単語が、突然、自分にとって真新しくも懐かしいものだと言うことに気づき、私はとまどった。
そしてそのとまどいは、さらなるとまどいを生み出し私を苦しめた。
……何故?
光が私の背後で動いた。扉が開かれる音。人影。
振り返ったが光が邪魔でよく見えない。
「……誰?」
その問いよりも、私がその人物に抱きしめられる方が早かった。
恐怖はない。
ただ何故だか分からないけれど、抱擁の中、還ってきたという安心感だけが私に満ちていた。
その人物は老年の男性で、名を紫苑寺彩雲(しおんじ・さいうん)と名乗った。
ことり、と私の中で何かが動いた。私は彼を知っている。
彩雲は、私の目の前に転がっていた木箱を拾うと、私についてくるように言い、居間へ行った。
居間へ行くと、彼は私に見せるようにして木箱のふたを開いた。
中に入っていたのは、一枚の面。
これは、……般若。
そう、これは、……私だ。
「儂はお前を知っている。いいか、よくお聞き。お前の名は紫苑寺舞花。この般若面に見憶え、もしくは、何か感じるものがあるはずだ。信じられないかもしれない。でも、これは事実だ。舞花。お前はこの面の付喪神、この般若面への想いの結晶たる存在なんだよ。人はそれを……妖怪と呼ぶがな。」
紫苑寺舞花。
私の中で、また何かが、ことり、と動いた。
懐かしい名前。そう、私は舞花だった。
「貴方は……誰?」
「儂か? 儂はお前の…………祖父だよ……。」
「お前がこれから人間として生活できるようにせねばな。明日から忙しくなりそうだ。」
彩雲……いや、おじい様はそういうと微笑み、居間から出ていった。
左腕のないおじい様の後ろ姿を見た瞬間、私の中にいる、私以外の何かがそっとほくそ笑んだ……そんな気がした。
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