「自分を外から見ている様で……変な……気分ですね……。」
光のほとんどない瞳をこちらに向け、父さんは微笑み、目を閉じる……。
俺は、父さんからの最後のプレゼントをいじりながらたたずんでいた。
……何も感じない……涙も出ないや……どうしよう……何がしたいのだろう……俺は……。
情報を求め、辺りを見回す。
周りは、灼熱の世界だった。炎が渦を巻き、この身を灼こうとする。
しかし、炎は風に阻まれ、ここまではこれない。
「こんな所にいちゃ、危険だよ。帰ろう、父さん。」
そう言ったつもりだが、声にはならなかった。
その時、視界のすみに動くものが、ハッとして振り向くとそこには鏡。
しかし、そこに映っているのは……。
「と、父さん……!」
違う! そんなはずはない!!
驚いて、倒れている父さんの方に振り直る。
「うわあああああああああああああああ……。」
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「……ぁぁぁあああああっ!!」
「きゃあぁっ!!」
“ん?”
跳ね起きた私は、聞き覚えのある声を聞いた気がした。
それと同時に、いつの間にか耳にかけられていたヘッドホンから、ベートーヴェンの「運命」が流れ出す。しかも、物理的衝撃波を伴う程の音量で……。私は、泣いた。
数分後。
「もう少し普通の起こし方はできないのですか? 双葉さん」
と私は耳に甚大な被害を与えた侵入者に対して話しかけた。
「だって、いきなり叫ぶんだもん、ビックリしちゃって、驚いた表紙にボリュームがMAXに……う゛〜、ごめんなさいっ!」
両手を合わせて謝る彼女は「佑苑双葉」、私の妹だ。
だが、妹とは言っても血はつながっていない。
彼女の両親は11年前に火事で亡くなっている。その時の火事で彼女は父さんに救い出されたが、身寄りがなかったため孤児院に行くことになったが、父さんの希望により引き取った。
当時は火事のショックで父さんにしか心を開かなかったが、今では、明るさを取り戻している。
「それにしたって、ココは男子寮ですよ……。何でいつもココに来れるのです? それに何しに来るのですか?」
私は、キッチンで目玉焼きを焼きながら聞いた。
「ん〜、いー質問だ。よろしい、答えてしんぜよう。」
と答える双葉は、しっかりと食卓についている……まったく……。
「まず、第一の答えは、管理人さんが許可してくれるからダヨ。お兄ちゃんの名前出すと、“いつも仕事で夜遅くまで大変だね”とか、“遅れないように起こしにいくのか”って言って入れてくれるよ。」
……こんな起こされ方をしているとは、夢にも思わないでしょうね。
「そして、次の答えは、家族の団欒を楽しみたいからに決まってるじゃない!」
チン! ……トーストが焼きあがった様ですね……ハァ〜……。
「でも、どうしたの? お兄ちゃん。叫んだりなんかして。」
美味しそうにパンにパクつく妹を見ながら答える。
「ん、あぁ……昔の夢を見ました……。」
「……んぐっ。それって、……お父さんのこと?」
「えぇ……。」
「そっか……そういえば、アレからだよね、お兄ちゃんが眼鏡をかけるようになったのは……どうして?」
ジッとこちらを見つめる妹の視線が恥しくて、努めて明るく言った。
「この方が理知的に見えるでしょう? アハハハッ」
「ふぅん……ファザコン。」
「ブッ!! な、何言うんですか!! いきなり!!!」
「だってそうじゃない! 何が、“この方が理知的に見えるでしょう”よっ! 話し方まで真似しちゃって、寝てる時まで眼鏡外さないなんてそっくりじゃない! 顔が瓜二つだからって自分とお父さん、比べる事ないじゃない!!」
「ぐっ……。」
痛いところをつかれ、黙り込んでしまう。
「お父さんのこと、忘れろとは言わない。でも真似してるだけじゃ、追いつく事はできても、超える事は無理。劣等感なんて消えないよ!!」
瞳に涙すら浮かべ双葉は叫ぶ。
「これじゃ、この間死んだのは、お父さんじゃなくて、お兄ちゃんみたいじゃない。」
ついには、泣き出してしまった。
「すいません。でも、自分で言うのも何ですが、一度付いてしまった劣等感は簡単には消えません。しかし、このままじゃいけないのもわかりますし、このままでいるつもりもありません。でも、しばらくは、このままでいさせてください。気持ちの整理がつくまで……。」
グシグシと服で涙を拭き、双葉が微笑む。
「そっか、じゃあもう聞かない。そういえば、お兄ちゃんは、生徒会長に入れ込んでいたよね。それも会長の雰囲気がどこかお父さんに似てたから?」
「う〜ん、初めはそうでしたけどね。会長殿の辛さを知った後では純粋に尊敬しているよ。その苦労の一部でも肩代わりしようと、今の委員会に就いている訳だけど。」
「ふぅん、そうなんだ。あ、そうそう、その仕事のことなんだけど、あんまり遅い時間までやってると身体壊しちゃうよ。たまには、休みを入れないと……でさ……あの……今度の日曜、どこか行かない?」
頬杖をしながら首をかしげる。
「……壊してから休むことにしますよ。」
「えぇーーっ、何で〜!」
コロコロと良く変わる顔を不満そうに膨らませて言う。
「今は、次の行事の追い込みなのです。遊んでいる時間はないのです。」
「でも……でも……」
「でも、まぁ、今回は遅れもないですし、ピッチを上げれば1日くらい暇な日ができるかも……。」
とたんにパァッと輝く双葉の顔。
「じゃあ……」
「決定事項ではないですが。」
「そうだよね……でも、楽しみにしてるからネ。あっ、もうこんな時間、急がなきゃ授業に遅れちゃう!」
「おやおや、急がないとダメですよ。」
「何言ってんのよ。お兄ちゃんもでしょ。」
「私は大丈夫です。私は足が飛ぶように速いですから。」
「? ……何、それ? きゃーーっ! リニアの時間がーーっ!!」
「はいはい、行ってらっしゃい。」
「……仕事……無理だけはしないでね。それじゃ!!」
ようやく行きましたか。
私は、食器を洗い始めると今一番の心配事が口をついて出た。
「委員の方々に何て言ったら良いだろう……。」
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