「――"裏生徒会"か……」
魔術師は椅子に背を預け、窓の外を眺めていた。そこには町並みも何もない、深い霧だけが立ちこめている。
「やはり、現れましたな」
執事風の老人が、音もなくその場に姿を見せた。彫りの深い顔立ちは今、別のものに歪められている。
「坊ちゃま……」
「私は<魔術師>だ」
振り向きもせず、彼は言う。
「心配しなくてもいい……自分のすべきことを忘れてしまうほど、私は愚かではない」
「ですが、情を捨てられるほど冷酷にはなれますまい」
「……何が言いたい?」
<魔術師>が椅子を回転させ、老人を見つめる。わずかな間の後、老人は非礼を詫びるように頭を下げた。
「ご自身のことを大切になさいませ……」
「私は<魔術師>だ」
それで十分だと言わんばかりに、自信に満ちた笑みを覗かせる。
「それより……生徒会メンバー、なかなかに面白い。使えるかもしれん」
「しかし、執行部の方は未知数ですな。あれだけの能力者を集めたのも気になります」
「構わん……理事長殿にも独自の考えがあるようだしな」
目を閉じた<魔術師>の脳裏に、生徒会役員の顔が浮かび上がる。
「中でも江島愛美……あれは私の考えにある程度、同調している。生徒会への楔としては役に立つ……」
そう言いながら、彼の表情にはどこか戸惑いがあった。
「理解者、か……」
「"式部"が消えました」
「へえ……当てにはしていなかったけど、意外と早かったね」
「生徒会が動いたようですわ」
「執行部かい?」
「いえ、執行部は別件で動いていました。"式部"を倒したのは役員三名」
「それに……未知の勢力が絡んでおります」
「ふうん……」
「何者なんだい?」
「分かりません。しかし生徒会のスーパー・コンピュータ"ノア"を一時的に占拠したという情報も……」
「ほう……」
「だが、まだ分からないな」
「調査はすでに開始しておりますが」
「ちょっと遊んでみたいな。試しに弱そうなの、暴れさせない?」
「しかし、我々の動きを逆に察知される可能性も……」
「構わぬ。使えるものを出せ……ここには"改新"を行える者が多い」
「それで、そいつをおびき寄せるのさ」
「……承知いたしました」
「私どもにお任せを……」
「ふふ……楽しみだなあ。歯ごたえのある相手だといいけど」
「そうでなくては、つまらんからな」
「頑張ってね……生徒会の役員さん。それに……謎の人も。ふふふ……」
© 1997 Member of Taisyado.