第3章 眠り――陰謀へといざなう夢
「ふう……」
龍之介は、一人校舎の傍を歩いていた。授業後、信吾の幼児化に関する情報を集めることになったのだが、どうにも気がのらないのだ。どう情報を集めるか、その方法を思いつかなかったこともあるが、
「鬼堂のためなんて、やってらんねーや」
というのが本音である。そもそも龍之介と信吾とは犬猿の仲。信吾が無力な幼児と化して最も利益を得るのは、彼によって自由な行動を阻害され続けてきた龍之介である。
本来なら飛び上がって喜んでもいい状況なのだが、なぜかそんな気持ちになれなかった。
「何だってんだ、クソっ!」
はっきりしない自分の気持ちに苛立ち、腹いせに落ちていた空缶をクズかごにたたき込みながら、当てもなく歩く。
その時、龍之介は背後から呼び止められた。
「あ、あら。天草くんじゃない」
「未紀先生!」
龍之介は、嬉しそうな声を上げて振り返った。声だけで正体を看破されたことに、未紀は少なからず驚いたが、『龍之介は蒼明学園の全女性のデータを保持、記憶している』という噂を思い出し、そういうものだと納得することにした。
「どうしたの? こんなところブラブラして」
「ちょっと、生徒会の用があって。でも、大したことじゃないんですけどね」
それを聞いた未紀は、色々な表情がない混ぜになった複雑な表情で言った。
「じゃ、今暇なのね。……あの、あのね、今、校舎裏で君を待ってる子がいるの。何か、話したいことがあるみたいなんだけど……」
「行ってきます!」
詳しい話を聞かずに、まるで弾丸のような勢いで龍之介は未紀の前から走り去った。土煙を上げながら急速に小さくなっていく彼の後ろ姿を見送る未紀の瞳は、深い苦悩と憂いに満ちていた。
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