キャラクター紹介 宝生院委員長
自己紹介文(?)

「では、委員長、後はここに判を…」

 ポンッ

彼の前に書類を出した委員が言い終えない内に、彼はその書類の委員長印の欄に判を押していた。
そして、その素早さに呆気にとられている委員には目もくれず、彼は判を押す前の姿、即ち自分の座っている椅子を半回転させて、窓の外を眺めているという姿に戻っていた。

これが彼のこの場−生活委員会々室−におけるいつもの姿、生活委員会名物『生徒会一の鉄仮面』の姿であった。

いつもの姿。
そう、彼は第三項が発令されている時、すなわち学園内で特殊な事件がおきている時以外はほぼ毎日、委員会の会室に姿を見せている。
にもかかわらず、最低限の書類の決裁を行う以外には殆ど仕事をせず、ただ窓の外を眺めているばかりだった。ほとんど発言をする事もなく、常に窓の外を眺めている彼の存在は、一見すると『昼行灯』という風にさえ映ることだろう。

しかし、英才、奇才に溢れるこの蒼明学園において、何の才覚も無い男が委員長の座に、それも新設されたばかりの学園の内で、最も新しくつくられた委員会の長の座に就くなどということは、まずあり得ないことだ。

では、この一見無能そうな生活委員長の才覚とは何なのだろうか?
それは、この部屋の普通ではあり得ない程の静けさであろう。

響いているのは僅かにワ−プロのキ−を叩く音と紙にペンを走らせる音のみ。それ以外はしわぶき一つ聞こえない静寂がここにはあった。見れば、この部屋の委員たちは熱心に各々の仕事をこなしつつも、何処となく落ちつかない様子で、時々ちらりと委員長の席の方を眺めている者もいた。それは、この生活委員会における委員長に対する評価でもある。

畏怖と尊敬。

充分すぎる程の敬意を払われつつも近寄り難い存在、それが彼のここでの評価だった。

緊急時、それこそいざと言う時には、彼が息を吹き返したかの如くに仕事をし、委員会が発足してから今日までに、この学園内で起きた様々な生活一般におけるトラブルを、ほんの僅かな時間で回復させ普段通りにしてきた手腕は、ほぼ全生活委員の認めるところであった。普段がどんな姿であっても。

ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン

会室の外から、アナクロな響きの鐘が時を告げる。鐘が五つ鳴ったのを確認するや否や、「ふぁーあ。」というあくびの声や、伸びをする声、そして急いで廊下へと駆け出す足音―トイレを我慢していたのだろう―等が一斉に部屋の中に響き渡る。

委員長席に座る彼も、委員の持ってきたお茶を受け取って啜っている。

見た者を射抜かんばかりの鋭い視線を相も変わらず窓の外に向け、校庭を見るとはなしに見ている彼は、若干15歳にして巨大学園都市『蒼明学園』の一般生活を取り仕切る生活委員会の長、宝生院 宗祇であった。

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 ―ここに来て、もう三ヶ月にもなるのか―

委員の煎れたお茶―彼に出されるのは焙じ茶と決まっていた―を啜りながら、宗祇は胸中で思っていた。

ようやく梅雨明けが宣言されたばかりの季節、しかし傾き出した日は夏の暑さを感じさせつつある、夕暮れ時の校庭を眺めながら、彼の中では何処からともなく、ここに来るまでの自分、ここに来てからの自分が思い描かれていた。

彼は正確には日本人ではなく、中国人なのかもしれない。と言っても、彼自身の生まれは日本であり、世界各地に広がる“華僑”の一員という訳でもない。にもかかわらず彼は中国人かもしれないという理由は、彼の生まれた家の一風変わった事情にあった。

彼の生まれた家は、表向きは極普通の一般家庭であった。しかし、その先祖は江戸時代の初期頃、当時の勘合貿易の船で来日したと伝えられている一族であった。そして、彼の先祖が来日した理由、正確には日本に渡らなければならなかった理由が彼の名字に由来していた。

彼の名字、宝生院とはその名の通り、宝の存在する場、そして、それを守る存在であることを示していた。それもこの世ならぬ“宝”を………。

宝貝。神器。MAGIC・ITEM。その時、その地域によって様々な呼ばれ方をするが、彼の一族の守っていたのは要するにそういった品々、一般の科学では解明できない超常的な力を有するものであった。

大陸にいた当時から、“宝”を狙う数多くの盗賊や、時には権力者とも戦ってきた彼らの一族からは、それ故に時として特殊な力を有する者が生まれ、宗祇もそのような事情から異能の力をもって生まれた子供であった。

本来であれば、彼も極普通の一般人のふりをして“宝”を守りつつ生きてゆく筈であったが、彼がまだ小学校に上がりもしない頃、彼の人生を大きく左右する出来事が起きた。

その日に至るまで数十年近くも、“宝”を盗もうとする者はいなかったのだが、突然、それを奪おうとする黒装束の一団が現れ、宗祇の一族を朽木でも倒すが如く倒した後、厳重にしまわれていた“宝”を奪って、何処へともなく姿を消したのだった。

死者こそ出なかったものの被害は甚大なもので、特に彼の母はどういった手段を用いたものか、外傷は何一つ無かったにも係わらず、こんこんと眠ったまま目覚めないという倒され方をしており、その一団の不気味なまでの実力を物語っていた。

この出来事の後、極普通の少年だった彼は、宝生院家の者としての訓練を受け始めることになる。波立たぬ心と、射抜く様な視線とを伴って………。

そして10年後、彼はここに、『蒼明学園』に来た。消息を絶った一族の者の残した手掛かり、「力有る者達の集う地……」という言葉を頼りに。

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 ブルルルル……。

彼の物思いは腕から発せられた振動によって破られた。
軽く首を振って回想の残滓を払うと、いつもの彼に戻って腕時計に内蔵された通信機をオンにする。同時に周りに誰もいないことを、目だけ動かして確認する。

「すみませんが、各委員長は速やかに執行部室まで集まってください。」

通信機から聞こえてくるのは、高等部生徒会長にして学園内人気NO,1の男子生徒、そして、彼の父以外で唯一彼を地に伏せさせる力量を持つ男の声だった。
何か考え事をしながらも、彼の足は自然と執行部室に向かっていた。あたかもそれを待ち望んでいたかの如くに………。

「おい、そこのお前。こそこそ隠れて何をしている。」

突然、宝生院委員長が誰何の声を発した。その相手は…………どうやら私のようだ。
先程周囲を見回した時に、私の存在は既に発見されていたのだろう。大分怖い目つきをしてこちらに近づいてくる。少なくとも上機嫌な訳ではないようだ。

名打ての柔術家としても知られる彼から逃げ切る事は至難の業だろうが、私にはこのテープを敬愛する紀家 霞報道委員長に届けるという崇高な使命がある。このような場所で倒れるわけにはいかない。

だが、もし私がこの場から戻ることあたわぬ時は、このテ−プレコ−ダ−を拾った方はどうか報道委員会に届けて欲しい。そして、こう伝えてほしい。

「報道委員会突撃取材班所属、1年A組、大宮 聡は立派に職務をはたした。」と……

「いつまでもブツブツ独り言を言ってないで、質問に答えろ!?」

プツン、ツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※「*」で区切られた部分は宗祇の回想であり、この報道委員の取材とは一切関係ありません。

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