前略
お元気ですか? あたしはもちろん元気です(当たり前よね)。
それにしても、生徒会に入って報道委員長までやってるそうじゃない。キミって興味のない事には全然本気を出さないから、心配してたのよ。母さんも言ってたわよ。「やっとあの子がやる気を出してくれた」って。
でも、どういう心境の変化なのかな? 「お姉ちゃんみたいにはならない」って小さい頃から言ってたのに。ま、何にせよ「人」に興味を持ってくれて嬉しいな。あたしの家に来た頃は、全然懐いてくれなくて。人嫌いだったもんね。自分の中に入ってきてほしくなくて、相手の性格に合わせた人格で対応したりして…ホント、可愛げなかったけど。
そうそう、あの「力」の方はどうなの? 前にとんでもない事件を起こしてくれたから、少しは気に掛かってたのよ。幽体離脱はこっちの世界に影響を与えるわけじゃないからいいとして(でも、覗きになんか使っちゃ駄目よ)、「例の力」の方は…使い方を間違えると危ないもんねえ。一応、あの事件の時にあたしが封じておいたけど。
危なくなったら連絡しなさいよ。
んで、最後に。あたしの夫…う〜ん、言い慣れないなあ…が、蒼明学園に行くそうよ。運が良ければ教えてもらえるんじゃないかしら? 彼も少しは先生らしくなってきたんだよ。相変わらず運は悪いけど。
それじゃあ、今度は引っ越ししたら直接会いに行くから。覚悟しなさいよ。好きな子くらいできたんだろーし、しっかり取材させてもらうわ。
じゃね。
「…まったく、困った人だな」
僕は手紙をテーブルの上に放り出すと、頭を抱えてしまった。まさか蒼明学園に来るなんて…ああ、胃が痛い。
「しかし初耳だな。お前が人嫌いだとは」
「小さい頃の話だよ。それに性格を変えるのだって…別に好きじゃない」
そう答えると、魔術師は小さく笑った。
「なるほど…両親を失ったせいで、か」
「…僕らのことは調査済みってわけ? 人が悪いね」
実のところ、僕はかなり気が短い方だ。特に幼い頃のことに触れられると、自分でも抑制が効かなくなる。
「そのことには触れないでよ…思い出したくない」
「――<奇跡>を望むか、紀家霞? 私の力ならば、記憶を消すことも可能だ。」
突然と言えば突然すぎる魔術師の言葉。
僕は首を横に振った。
「思い出したくないけど…忘れたくないんだ。あの人たちのことは」
魔術師は何も言わない。口元に微かな笑みを浮かべたままだ。たぶん、彼はお見通しなんだろう。僕の心の内なんて。
――ドコ? オトウサン…オカアサン。ボクハ、ココニイルヨ…。
あの頃、言葉なんて嘘だらけだと思っていた。届けたい言葉が、届けない人に伝わらなかったから…。でも、今は裏切られたはずの言葉を扱っている。何でかな?
――ボクハ、ココニイルヨ…ココニ、イルヨ…。
囁くような声が聞こえた。
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