クリスマスもハードワーク
12月24日。
クリスマスイブ。

行事の多い蒼明学園だが、明日から冬休みに入るというこの日も、もちろん例外ではない。
例年、各等部でクリスマスパーティーが主催され、休み前最大の盛り上がりを見せる。

そんなクリスマスイブまであと1週間となった今日。

「大学部では模擬店200店出店予定なので、こちらは500店で!」
「中等部ではツリーの飾りを作るイベントやるって聞いたぞ!」
「じゃ、手芸部にクリスマスリースの作成イベント依頼しよう!」

年中多忙を極める催事実行委員会室で、暴動一歩手前のような騒ぎが起きていた。

「おい、幼等部大学部で合同お遊戯会やるらしいぞ!」
「じゃ、対抗して、高等部生徒会が初等部にクッキー配布だ!」
「―― 皆さん、ちょっと待ってください。」

低めの落ち着いた声が部屋に響いた。
めずらしく明らかな苛立ちが混ざっている。

「なぜ対抗する必要があるのですか。高等部のクリスマスパーティーは例年より規模も大きくしました。これ以上他と張り合う必要性がありません。」

催事実行委員たちは、顔を見合わせると1枚の紙を掲げた。

「委員長! さっき会長から直々に手渡されました!!」

すかしに高等部の校章が入った用紙。生徒会の正式な通達だ。

「なぜ、もっと早く私に渡さないのですか!」
「『今年も一番盛り上がるように頼むよ』とのことです!」
「そういうことは私がここに入ってきた時に伝えなさい!」

声を荒げると、委員から通達をひったくるように取り上げる。

正式な通達は「役員が開いたときのみ文字が浮き出る」という白河会計が開発した仕組みを使っており、他の人が開封しても何も読めない。

「読みますよ? えーっと…………『催事実行委員会には1週間後のカウントダウンイベントとの並行作業で苦労を掛けますので、クリスマスパーティー当日は英気を養うことに努めてください。特に、佑苑催事実行委員長は休むように。』」

室内が一瞬静まり、すぐに不安げな声に変わった。

「委員長! 俺たち、休んでいいんですかね……」
「皆さんの心配は分かります。おそらく、当日大幅にサポートが入るんですよ。ほら、私たち以外に大がかりなイベントができる委員会が1つあるでしょう?」
「確かに!」
「あそこならできるな!」

委員からも口々に同意の声が上がる。

「静かにしてください。続きを読みますよ。『本通達発令時より、本件、選挙管理委員会に催事実行委員会への全面協力を依頼します。なお、クリスマスパーティー当日の催事実行委員会の指揮、及び突発的な出来事の対処に関しては江島選挙管理委員長に委ねますので、佑苑催事実行委員長は、当日憂いなく身体を休めるように。各委員会の皆さん、今年度も高等部のクリスマスパーティーが最も盛り上がるようご協力のほどよろしくお願いいたします。高等部生徒会 会長 朱鳳克巳』」

佑苑はため息をついた。

「まずは、克巳会長からのお気遣い、ありがたいことです。」

通達を大切そうにファイリングして、机の引き出しに入れる。

委員の皆さんがパーティーに参加した経験は、以降の催事にもよい影響を与えるでしょうし――何より、いつもと違う目線でパーティーを見ることでカウントダウンイベントの動線や警備の再考も図れますし、今後、今よりももっとよいイベントを作り出すことが会長の真意でしょうか。これは承認せざるを得なさそうですね……。

周囲に集まる委員たちを見回しながら、佑苑は続けた。

「やはり、選挙管理委員会の全面支援ですね。高等部の役員選挙は全校を飛び越える規模のイベントですが、今回のようなパーティーとはずいぶん異なりますから「催事実行委員会全員終日休み」というわけにはいきません。交代でパーティーへの参加ができる程度に思ってくださいね。」
「委員長! 俺たちのことはともかく。まずは……高等部が一番にならないと!」
「そうですよ、委員長! 会長がそうおっしゃってるんですから、今年も高等部が一番盛り上がりましょう!」
「というわけで……」
「委員長! 模擬店で使う屋台が不足しているので購買委員会に調達依頼します!」
「委員長! 手芸部にリース作成イベントと販売を依頼します!」
「委員長! 初等部にクッキーを無償提供したいので調理部にかけあってきます!」

委員が口々に話す姿を見ながら、佑苑は体中に力がみなぎるのを感じていた……なんと言おうと、根っからのお祭り好きなのだ。そうでなければ、この仕事を続けられるわけがない。

「……皆さん!」

しんと静まり返った委員達をぐるりと見渡す。
見つめる目は、みな、真剣だ。

「克巳会長からの依頼ではしかたありませんね。今年も高等部を一番盛り上げましょう!」

一同の顔が笑顔に変わる。

「はいっっっっ!!」

蒼明学園一の苦労人、佑苑若杜。
彼のわずかな休息はパーティ当日までお預けだ。
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