「物書きさんに30のお題」
01.壊れた時計 【132文字】

真っ暗な部屋で、まだかすかに震える手で時計を外す。
軽く耳を当ててみるが、何も聞こえない。

ふいに、文字盤に何かが零れ落ちた。

「……」

両手で包み込んで、祈るように唇に当てるが、聞こえるのは自分の吐息だけ。

彼女が、わずかに首を左右に振ると同時にこらえていたものが流れ落ちた。

【コメント】

仲間を攻撃してしまった雫の激しい後悔。大切にしていた時計をその戦いで壊してしまった…。
この時計の由来はまったく考えてないです(^^;


02.雨宿り 【136文字】

空気に混ざる湿った香り。
悲しみと憂いの入り交ざったような香り。

「そろそろ、降って来るかしら」

薄暗い部屋の中、全身を集中させる。

遠く、かすかに響く、いかづちの音。
石畳を急ぐ、いくつかの足音。

「あら?」
ふと振り返ると窓の外には、大きな影。

彼女はブラインドを下げ、灯りを点した。

【コメント】

生活の中で雫の家の軒下に雨宿りされてる光景がなんか浮かんだので…。


03.ギブス 【126文字】

「別に、これくらいたいした事ねーよ。医者が大げさなんだって」
「そうなの?」
「そうだって! ほんとは動かせ…」
「止め…」
「あぁ! っつーー!」
「無茶しないの」
「…。」

お互いの声に、ため息が混ざる。

「…壁、殴った」
「そう。で、大丈夫だったの?」
「は?」
「壁、壊れなかった?」

【コメント】

これは、天然です!(^^;


04.皺 【136文字】

「しゃきっとしなさい」

あまりに変わらぬ姿と声に、驚いて飛び起きる。

「……あの学校にいるわけないだろ……いててっ!」

どうやら床で寝ているうちに朝がきたらしい。
床には布団代わりに白いシャツ。
どうやら、寝る前に無意識にハンガーから奪い取ったようだ。

「しゃきっとしなくちゃな……」

【コメント】

社会人の最初の日をそんな夢で踏み出した彼が少しかわいそうな気もします(笑)


05.花に嵐 【130文字】

桜が舞う。
勢い良く落ちる花びらが風に乗り、
ゆれる枝がリズムを刻む。

花に嵐。

天空にある月。
優美な丸い月は、薄暗い影の向こうへとその姿を隠す。

月に叢雲。

いいことばかりは、続かない。
俺は、手にした缶ビールをぐっと飲み干した。

「あら、先生もお花見です?」

……前言撤回。

【コメント】

そんな光景が目に浮かぶようで。。。(笑)


06.ガラクタ 【67文字】

空を見上げると、彼女は立ったまま、ゆっくり目を閉じ、深く呼吸を始めた。

淡い月の光に包まれた彼女は、いつもより格段に神々しい。
ためらいを振り切り、彼は声をかけた。

「…せ、先生、どうされましたか?」
「…そうね…心の大掃除、かしら」
「月光浴ですか…じゃ、俺も」

【コメント】

「心の中の大掃除」、という雫の言葉が浮かんだのでそこから話を作ってみました。


07.散歩日和 【68文字】

ぷしゅっ。

缶コーヒーなのが残念だ。

ふぅっ。
家庭訪問も楽じゃない。
時間より早く行っても問題だし、遅れていくのはなおさらだ。

遅れを見込んだ分、ぽっかり空いたまとまった時間。

公園のベンチでやわらかい日差しを浴びながら、彼はゆっくりとノドを潤した。

こんなのもたまには悪くない。

【コメント】

柊くんが公園で缶コーヒーのプルタブを開ける姿が浮かんだので、そこから書きました。家庭訪問期間ならそういうこともできるかな、と。


08.夢物語 【133文字】

ふと、立ち止まると、私は軽く目を閉じ、耳をそばだてた。

遠くに聞こえるせせらぎの音。
待ちかねたようにさえずる、小鳥たち。
風が急いで通り抜け、ざわめく木々。

気づくと小鳥が一羽、私の片手で羽を休めていた。
目を合わせた後、手を高く掲げ小鳥を行かせる。

もう、二度と戻れない道。

【コメント】

まだ山に住んでいたころのお話です。豊かな自然がすぐ側にあった、雫はそういうところにいたんでしょうね。


09.バス停 【127文字】

「おはようございます」
「おはよう」
「珍しいですね」
「? どうして?」
「え? 先生がこんな時間...」

彼女は黙って首をかしげた。
彼は慌てて腕時計を確かめる。

「うっわ」

朝7時。

「...少し遅れてしまったんだけど...」
「遅刻かと思ったのに...」

彼はがっくりと肩を落とした。

【コメント】

時間を間違えて早すぎてしまった生徒と、少し遅れたという雫。
いったい、どんだけ早く着いてるんだろう、この人……


10. 銀色  【127文字】

蘇芳色の地に、銀糸の刺繍、蓋には月の螺鈿細工。

彼女は薄暗い部屋で淡く輝く小箱を開けた。

ほのかな光が人を安心させるように箱に灯る。
彼女がふと顔を上げると窓の向こうに、手招く影。

「!」

彼女は窓から勢いよく飛び出した。
その姿を水に変え、見えない影を追いかける。

【コメント】

実は彼女は空を飛べるんですよ。意外です……っていうか、これを書くためにキャラクターシートを見直して初めて知りました!(こら
一度くらい、空を飛ばせたいな、ということでここで空を飛ばせました。
妖怪時のみ、の限定つきなので水でできた人の姿に変わっています。


11. lesson  【127文字】

鈍く重い音を響かせ、扉が閉まった。
照明を落とした店内にこだまする、声と声。

「……良かったのですか」
「えぇ」

彼女は新宿から出て行くだろう。
それでいいのだ。

「あの子に必要なのは、経験」

振り返らずに、前を向いて歩くこと。
それが今から始まる、生きるlesson。

【コメント】

新宿のバー「Time」。もともと雫が所属していたネットワークです。
いろんなことがあって、そこから出ることを決意した、その直後、と言う感じです。


12.真昼間の話 【130文字】

辺りは真っ暗、闇の中。
薄らぼんやり見える影を頼みに歩き始めましたわ。
手探りで。

5分ほど歩いた頃でしょうか。
ふと手に触れた布をたぐり寄せると、向こう側からたくさんの光が…

俺は、ため息をついた。

…自分の部屋なら、もっと早く解決しようよ、センセ。
まぁ、らしいけどさ。

【コメント】

まぁ、そんな天然さもチャームポイント、ってことで(^^;


13. マスター・プラン  【130文字】

「人は十人十色、百人百色です。一人一人の色を生かし、社会へ出る準備をさせる、それが学校ではありませんか?」
「だ、だが…」
「たった一人、色の濃い生徒がいるだけで、基本計画が立ち行かないのでしたら、この学校に未来はありません!」

議場は水を打ったように静まり返った。

【コメント】

雫が一人の生徒を守るために、退学処分を止めようとしている、そんな状況を想像しました。
個人的な想いとしては、柊くんの退学処分を留めようとしたことがある、という設定を作ってます。
雫は、教師として筋が通らないことは嫌いな子だと思ってるからです。


14. 曲がり角  【127文字】

ぱしゃ、ぱしゃ、ぱしゃ。。。
湯あがりのほんわりあったかな手に、たっぷりの温泉水。
額に、頬に、たっぷりと、はたく。

ぱしゃ、ぱしゃ、ぱしゃ。。。

思わずため息がこぼれた。

「...きっと曲がりすぎて、3周くらいしてると思うんだけど」

それでも気になる、お肌の曲がり角。

【コメント】

雫は、妖怪さんですから。もう、10回は曲がってると思うんですが。。。


15. リズム  【129文字】

修学旅行の夜更け、車座に座って隣同士手をつないだ。

とくん、とくん...

「…夜更けに外から自分を呼ぶ声に目を覚ますと、そこには…」
「きゃぁぁっ!」

とくん、とくん...

手から感じる鼓動に変化なし。

「ねぇ、センセ、怖くないの?」
「え?」
「あー、またどっかいっちゃってたよ」

【コメント】

決して聞いていないのではなくて。妖怪さんな雫には当たり前のことだっただけで。。。(^^;


16.悪魔になる 【130文字】

カリカリカリカリ...

―― はっ?

回答を書き込む手が止まる。

―― きたぁっ!!

地学の試験では、暗記では絶対に解けない問題が出題される。

「以下の材料を使って、時計をつくる場合の完成図を描きなさい。
 棒、錘、糸、針...」

先輩から後輩へと受け継がれる呼び名は「悪魔の問題」。

【コメント】

雫は小悪魔にはなれるとおもうのですが、やっぱ、こっちの方がいいかな、と(^^;


17. フェイク  【120文字】

「ん?」

センセの目の奥に一瞬だけ見えた。

「どうかしたの?」

赤い炎。

「……」
「ふふっ」

ぞっとするほど冷たい笑み。

「お前、誰だ!?」
「...くんっ!」

背後から聞こえた冷たい声。

「彼に手を出したら容赦しませんわよ」

間違いない、目の前にいるのは偽者だ。

【コメント】

大幅に書き換え(笑)。
シチュエーションが浮かんでるんですがなかなか書き表せなかったんですよね。
一度妖怪さんに好かれたら、その後も何度かこういうことが起こったんじゃないかと。


18. 灯  【129文字】

「足元、気をつけるだよ」

灯篭の光を受けて、濡れた石畳がかすかに輝く。

「…雨の時期は神様がここをお通りになるだ」

参道に沿って、1つ1つ灯していく。

「忘れたら?」
「女神様が出てこられねば、雨が降らん。
 帰れねば洪水じゃ」

ダムのほとりの小さな祠。
今でも続く小さな誓い。

【コメント】

雫を形作った想いの源は、どうだったのかな、というところから書いてみました。


19. 惚気  【124文字】

「…せ、センセ、…お、俺……」
「…あっ」

彼女が指差す方向には、一羽のモンシロチョウ。

「もう、夏なのにね。」

くすっと笑いながら目は蝶を追っている。

「……で、ごめんなさい。何でした?」

その視線はまだ蝶を追いかけたまま。
結局、俺は今日も何もいえなかった。

【コメント】

柊、すでに学生の頃から言えないのか(笑)
それじゃ、教師になっても無理だな(笑)


20. 怒り  【130文字】

身体に吹き付ける強い雨。

「…てめぇ、バカにしてんのか!」

女は目を細めただけ。

ダッ。

地面が蹴りこまれ、無数の刃が腕をえぐる。
だが、女は微動だにしない。

「...もう少し場所を選んだ方がいいですわね」

天を仰ぎ軽く目を瞑ると、女はゆっくりと両手で弧を描き、頭上にかざした。

【コメント】

この後、相手をめがけて腕を振り下ろすことで、放たれる「水撃」。
雫の妖術[水撃]には「手を振る」という限定が付いてますので、祈りを捧げる感じにしました。


21. 霖雨  【123文字】

―― そうねぇ。この時期は少し苦手かしら。

生徒とたわいもない会話を交わし、廊下に立ち止まった。

雨の香りが、雨音が、心を痛ませる。
いつになっても色あせないあの日の出来事。

心の中から消えない、雨。
誰も救えない、雨。

そんな雨を呼ぶつもりはなかったのに。

【コメント】

「霖雨」とは、幾日も続く雨、のこと。まさしく、今の梅雨の時期ですね。
雫は、雨、大好きなんですけど、思い出すと辛そうです。。。


22. カミサマ  【130文字】

―― 合格できますように

人は願う。
でも、チガウ。
何もしないで助けてくれるなんて話があるわけない。

「やっぱ、神頼みなんてだめっすよね〜」

それも、チガウ。
真摯に願い、努力したかを見る、それがカミサマ。

「…合格したかったら勉強なさい」
「……うっ」

カミサマには叶わない。。

【コメント】

雫も、神様ですから。一応(笑


23. 夕暮れ  【126文字】

黄昏。
たそがれ。
誰そ彼。

徐々に光が淡くなり、徐々に影が強くなる。

妖かしの刻――逢魔が刻。

「一人で夜道を歩いて帰るのは感心しないな」
「大丈夫です」
「……そういう問題じゃない」
「では、どういう問題ですの?」
「……」

くゆらせた紫煙がひときわ大きく輪を描いた。

【コメント】

まだまだ心にはいまよりもずっとずぅーっと疎い頃の雫でございます(笑)


24. ひなたぼっこ  【126文字】

木陰を求め、丸太を半分に割って作ったベンチの上に腰掛けると、文庫本を読み始めた。

「せんせ〜っ! せんせ〜っ!」
「?」
「あ、せんせ! 良かったぁぁぁ」
「???」
「戻ってこないから心配したよぉぉ〜」

涙を流す女生徒に囲まれ、時計を忘れたとは言い出せなかった。

【コメント】

雫は、TPOを覚えた。経験値が1上がった(笑)


25. 濁声  【130文字】

「〜、ナナビョーシ!」
「ないわ〜」

彼女たちは必死に睨みつけた。
見つめる先には異様な響きの大太鼓。

「うわっ、もう、ヤダ」
「あれ?」

すたすた。

「少なくとも片面は皮を張った方が音が出ますのよ」
「?」
「叩いて空気の振動を伝えるのが――」

小一時間。
彼女たちは爆笑し続けた。

【コメント】

応援団が使う大太鼓って、独特のぶぅぉーん、って響きが好きじゃないんですよ。
大太鼓で両面の皮を張らずに叩くと出る音。
でも、共鳴しないから音が響かないので、殴るように打ってでかい音を出すんですよね。。。嫌だったなぁ。
という私は、小学校の器楽部で大太鼓担当でした(笑)


26. 棘  【130文字】

窓を叩く雨。
強く叩けば叩くほど痛む。

あの日、あの夜。

こんなに痛むのに、傷が見えない。

雨はまだまだ強くなる。

あのヒトは今どうしているだろうか。

こんなに痛むのに、涙さえ流れない。

雨はもっと強くなる。

どうしたらいいのか、まだわからない。
忘れてしまえる日が来るのかさえ。

【コメント】

ずっとずっとひっかかてるとげなんですが。。。
いつまで引きずってるのか、と思われそうですね。
でも、それだけ、この子は真っ白な心だったと思うんです。
だからこそ、やってしまったことをなかなか忘れられない。
そんな感じがだせたらなーと思いつつ、難しいですね(^^;


27. ready?  【130文字】

落ち葉舞い散る中、少し歩き、公園に出た。
週に一度くらい、何もない日は、外でお弁当を食べよう。

日の光を浴びて、ゆっくりパンを口に運ぶ。
パンくずを投げて、小鳥を集める。
ゆったりと流れる時間が、私自身を作り出す。

少しずつ決められたことから外に出る。
私の中のReady Go。

【コメント】

前の話があまりにとどまった感じだったので、今度は前向きな様子を。
雫も上下動いていたとしても、ゆっくり右上がりになっているはずなんですよね。


28. 遠くへ  【130文字】

振り返れば、悲しみ、さざめき、悔しさが溢れ、
前に進めば、それらから逃げているだけな気がした。

ずいぶん遠くへきたはずなのに、現実はいつも側にある。

何も変わらない。

変えたい、でも、変わらない。
忘れたい、でも、忘れられない。

それは、私が妖怪だからなのか、それとも……。

【コメント】

なんとなく思うままかいてたらこんな感じに(^^;
最後は「これが『心』なのか」と暗に思ってる、ってとこで。


29. ボンクラ  【129文字】

「あ、あの......天野先生」

ゆっくりとベンチから立ち上がり、数歩前に進む。
大きく深呼吸、ひとつ。
小鳥が羽音を立てて飛び去り、また舞い戻る。

「柊先生、空気がおいしいですわね〜」
「そ、そうっすね」

柊は頭を振りながら大きくため息をついた。
いつものように、いつもどおりに。

【コメント】

いつもどおり。。。ちょっとかわいそうですが、しょうがない(笑


30. 星空の下で  【67文字】

軽く目を閉じ、両手を開く。

ゆっくりとした挙動が、優雅に高貴に見えてくる。
月に一度、神様に戻る瞬間。

自分を産んでくれた<想い>を感じつつ、
木々のざわめきに耳を傾け、風が肌を撫でるのを楽しむ、新月の夜。

観ているのは、星たちだけ。

【コメント】

雫は「想い」を大切にしたい子だと思ってるので。

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