自己紹介かぁ……。 え〜と。 ……家族のことと、学校のことと……あとは、「片葉の葦」のこと、話せばいい……のよね。きっと。 でも、どうしよう。やっぱり、あのことは、ちょっと……あんまり……知られたくないけど……うーん。 でも、聞いてほしいし、うーん。どっちなんだろう。 ああー、もうっ。 私、自分のこと話すの苦手なのに、自己紹介なんてそんな……はぁ……。 あの、初めまして、こんにちは。葦原恋(あしはら…れん)です。 ……この名前、響きは好きで気に入ってるけど、字だけ見ると……恥ずかしいかなぁ。 うーん。 あっ、でも、お父さんもお母さんも「可愛い」って言ってくれたし! あ、あの、今の私の両親のことです。 稔(みのる)さんと早苗(さなえ)さん。大切な家族。 二人とも少しのんびりしたタイプで、口数は少ない方なんだけど、お互いをすごく大切に想ってるんだなぁってことが私にも伝わってくるぐらいで……。それに、私のことも。 一緒に暮らし始めてからまだ5年目だけど、昔からずっとこの家で育ったみたいな感じがします。そんな風に思えるのは、お父さんとお母さんが私を本当の娘として見守ってくれてる証拠なんだろうなって、そう気づく度に、二人のこともっと大好きになります。 ……わたしはいつもそうやって、ただ嬉しがってるだけで、先のことは考えてなかったけど、でも二人ともちゃんと先のこと見てて、いつかは来る別れのこともちゃんと……。 だから私は、三人で家族として過ごせる時間を大切にしていきたいです。一緒にごはん食べたり、時々お出かけしたり、それぐらいしか思いつかないけど……。 えぇっと、学校は、私立北河学園の高等部に通っています。 宮志摩笙くんと同じです。クラスは違いますけど。 学校では、何だか妖怪絡みの事件が多くて、私の友達も何人かそういうのに巻き込まれてて……。 学校って人がたくさん集まるところだから、想いも集まりやすくて、妖怪にとっても居心地のいい場所なのかもしれない。 ……。 あっ、あー、あぁ、ああっ、そうかぁ、それで私……。 あ、あのー、いえ、別に。ごめんなさい。何でもないです。 (やだやだ、自分も妖怪だって事、一瞬だけすっかり忘れちゃって、私ったら……) 「片葉の葦」の伝説、御存知ですか? 名古屋だけじゃなくて、同じ種類の言い伝えが全国各地に残ってると聞いたので、私の他にも「片葉媛」がいるのかもしれません。 それで、ええと、内容なんですけど。 あの……。 ふー。 あのっ。 一目惚れした相手が約束した場所に来てくれなくて、ずっと待ってたけど、哀しくなってそれで……身投げしちゃったっていう……伝説……なんです……。 はぁ。 だめだめ、もうっ。 自分のことなのに郷土資料の本とかに載ってても、読むとまた哀しくなって来ちゃうし、恥ずかしいしで読めないし、大体もう、男の人なんて信用できないんだから!! 昨日の帰りにいきなり声かけてきたあの人も見るからに軽薄そうで、本当にもうっ。 ああっ。また思い出しちゃった……せっかく忘れかけてたのに…… はぁぁ。 ……あっ。あの。ごめんなさい。 男の人みんなが信用できないとか、そんな風には思ってないです、私。 私の友達の中でも、男の人とお付き合いしてて、幸せそうにしてる子が何人かいるし、両親を見てても、……うらやましいなぁって思ううこと、時々だけど、あるし……。 お母さんは、 「好きな男の人ができたら、家へ連れていらっしゃいね」 って言うけど、でも、私はそんなことは、別に……。 男の人とお茶飲んだりしてる時よりも、友達や両親と一緒にいる時の方が楽しいし、落ち着くし。 それに、もし誰か男の人を好きになったら……本当に好きになっちゃったら、その人が私のことどう思ってるのか知りたくなっちゃうだろうし、何か約束して守ってもらえなかったら、……そうしたら、でも、私……そんなの、いやだし……。 男の人とお付き合いしてる女の子たちはそういうこと考えたりしないのかなぁ……。嫌われたらどうしよう、とか、裏切られたらどうしよう、とか……。 ……はっ。 あっ、うーん。 でも、いいの、私には関係のないことだもの。 今の私にとって、いちばん大事で、大好きなのは、お父さんとお母さんだから。 あの、私、そろそろ帰らないと。 お母さんきっと心配してますから……。 いいですか? それじゃ、お先に失礼します。 うーん、あれで良かったのかなぁ、ふー。 あぁ緊張しちゃった。 さっ、早く帰って、お母さんと晩ごはんの準備しなきゃ。 今日はお父さんも帰り早いって言ってたから、急がないと……。 |
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