“朱姫” 緋翼禊

あたしは、死ぬつもりだった。
これで、この世の苦しみとも永遠におさらば……

そのはず、だったのに……。

あの時、渾身の力で、最後の願い――自身の消滅を願っていた……。

その時。

「……力づけてあげられるように。そうやって生きていけるように」

ふと気がつくと、他にも何人もの願いが聞こえた。

私は願いを叶えなくてはならない。
でも、叶える願いは、あたしの一生に、たった1つだけ。
それは、もう叶えた。
だから、あたしの生きる意味は終わった。

消耗したこの身体で、一心不乱に羽ばたいた――炎で身を包むために。
この身を焼きつくす、そのために。
……でも。あたしが、炎に包まれることはなかった。

あたしは、その場で立ち尽くしていた。

今なら、少しだけわかる。

あの時、あたしは、まだ誰の願いも叶えてなかった。
あたしの力は「口に出した言葉を、そのまま現実にする」力。
確かに、あたしは、まだ、その力を使っていなかった。


「禊……か……」

彼らに、新しくつけてもらった名をつぶやく。

「禊……でどうでしょう。」
「生まれ変わる、って意味だし、ばっちりじゃん。」
「銀河くん、それは少し意味が違いますよ。本来は――」
「笙くん。でも、禊って、自身の身体を清めることだけど、そこから再生
 するって意味も出てくるから、完全に違うわけでもないと思うけど。」
「ほ〜らね」

 少女の声に軽く胸を張る少年の傍らで、ため息をつく少年。

「恋さんに言われるまでもなく、私は知ってましたよ。で、銀河くんは、
 本来の意味を知ってたんですか?」
「え? あ、ま、まぁ……。ははははは。」
「ってことで、禊さん、遊ぼーぜ!! おいら、鉄棒得意なんだ!!」
「あのね、私、苗字は、緋翼、がいいと思うんだけど……。」
「れんれん、赤い翼って、そのまんまじゃん。」
「音彦くん……うーん、いいとおもったんだけどなぁ。だめかなぁ〜」
「……まんまだけど、でも、いいと思うよ〜」

あの時、思わず、笑ってしまった、あたし。
そのあたしを見て、彼らは声を合わせて、言ったわ。

「じゃ、決まりだね! 緋翼禊さんっ!!」

あたしは、4人のまっすぐな想いと、まだ若い彼らを優しく見守っていたい影宮のみんなが、新しく生み出したモノなのかもしれない……。

あの頃のあたしには、誰もいなかった。
見捨てられ、忘れられ、何よりも消滅することを願っていた。

今のあたしには、影宮のみんながいる。
見守られ、支えてくれている、みんながいる。

あたしの力は、かなり変わってしまったけど、きっと、それもすべて彼らが願ったことなのだろう……。

それが、彼らの願いなら……。
たとえ、能力が変わってしまい、私は前の私でなかったとしても、それが彼らの願いなら。

生きて歩いていかなくちゃ、ね。

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