“流星” 天堂銀河

「ククク……ニンゲンノキモ、ユックリトクラッテヤル……」

唾液が私の頬に滴り落ちた。
恐怖、絶望、後悔……様々な言葉が脳裏を駆け巡った。
だが、最後に導きだされるものはたった1つ――死だ。

しかし、その時。

「俺の学校で好き勝手するなよ、化け猿野郎」

救いの主であろう声は、驚くほど若いものだった。
声の主の言う「化け猿」の巨体のせいで、私からは彼――間違いなく男、いや、少年のものだ――の姿は見えない。

化け猿は私を押さえつけたまま、ぐるりと首を背後に向けた。

「……ワカゾウガ。ジャマスルナラ、キサマモクラッテヤルゾ」
「やってみろよ!」

瞬間、私を覆っていた影が消え、校門の上に立つ人影が月光に照らし出された。
学生服を着た、強い意志を感じさせる瞳をもつ少年。

「この世の悪を打ち倒す、正義に輝く流れ星! ここに見参!」

「――母さん! 何を書いてるんだよ、何を!」

突然、私の部屋に元気のいい――悪く言えばうるさい声が響いた。

「何なのよ、銀河。部屋に入る時にはノックしてって言ってるでしょ?」
「そうじゃなくて、これは何なのさ!」

やんちゃな感じのする高校生くらいの男の子。実は私――天堂月夜(てんどう・つくよ)・年齢は秘密・職業は小説家――の一人息子だったりするのよね、これが。

名前は銀河(ぎんが――どうも評判が悪いのよ、この名前。何でかしら?)。顔は私に似ていい線いってるんだけど、まだまだコドモなのがウィーク・ポイントかしら。

「何なのって、小説よ。しょ・う・せ・つ。あなたのお小遣いの元でしょーに」
「そうじゃなくて、内容だよ!」

ドン、と机を叩く。

「これ、俺じゃないか!」
「変なこと言わないで。私は化け猿さんを息子にもった覚えはないわ」
「か・あ・さ・ん!!!!!」

単純な子だから、からかうのはラク。でも、すぐに怒るのは頂けないわね。

「別に『天堂銀河』って名前は出してないのに」
「出してなくてもバレバレだって! こんなの仲間の誰かに見られたら、大目玉だよ!」

まあ、妖怪はできるだけ身を潜めなきゃいけないらしいものね。
我ながら愉快な――じゃなくて、大変な子を授かっちゃったわ。

「とにかく、ここは書き直しだから」
「えーん、銀河ちゃ〜ん」
「嘘泣きしても駄目。影宮のことは書かないでくれよ。もちろん<歪み>の存在も」

けど。妖怪といっても、そのメンタリティーは人間と変わらないみたい。
手っ取り早く、その実例。

「銀河、紗里ちゃんとはキスくらいしたの〜?」

ぼむっ(赤面)。

「な、なな、なんで、そういう話題になるんだよっ!」
「面白いから」
「か、かかかかっ、母さん!!!!!」

いやー、ホント、分かりやすい子なんだから。でもねえ、愛と正義と熱血に生きる私の息子なら、もっとラブシーンを増やしてほしいわ。
お母さんからの、オ・ネ・ガ・イ・♪

終わり

メンバー紹介へ